ゾルゲンスマによるSMA治療
ゾルゲンスマとは
ゾルゲンスマは、SMA患者さんに不足しているSMNタンパク質を補うことを目的としてつくられました。安定してSMNタンパク質をつくりだすことができるように設計したSMN遺伝子を病原性のない殻を持つ治療用ベクター(アデノ随伴ウイルス9型のカプシドを有するアデノ随伴ウイルス:AAV9)に入れて、目的の場所(運動神経細胞)まで届けられるように開発された製品です。
ゾルゲンスマ由来の改変SMN遺伝子は、患者さんの染色体には組み込まれないため、原則的に患者さんの遺伝子に影響を与えません。
このような治療を遺伝子補充療法と呼びます。
乳児期に発症したSMAの早期治療の重要性について
SMAは進行性の疾患です。
SMA未治療の場合、出生直後から運動機能の喪失がみられます。
しかし、治療を開始した時期が早ければ早いほど、治療効果が高いことがわかっています。
早い段階で症状に気付き、適切な診断のもと治療を行うことが重要です。気になる症状がある場合はすぐに医師または医療従事者へ相談することをお勧めします。
ゾルゲンスマによる治療で期待できること
運動神経細胞の消失を防ぐ
運動機能の低下を防ぐ
症状の進行を抑える
ゾルゲンスマのリスクや注意事項
ゾルゲンスマによる治療では、次のようなリスク及び注意事項があります。該当する方は主治医にご相談ください。
注意すべき副作用 |
ゾルゲンスマ投与により、肝機能障害、血小板減少症、血栓性微小血管症、発熱、嘔吐、心筋トロポニンI増加などがあらわれることがあります。 |
投与前後に行う プレドニゾロン などの副腎皮質 ステロイド剤の 注意事項 |
ゾルゲンスマ投与により肝機能障害が発現することがあることから、ゾルゲンスマ投与前後にプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド剤を投与します。同薬の服用によって免疫力が低下するため、感染症のリスクが高まります。 感染症にかかった場合は重篤化する可能性があるため、適切な感染症予防をしてください。同薬服用期間にやむを得ず予防接種をする患者さんは、予防接種の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ、接種をします。 |
SMAの症状が 進行した患者さん |
SMAの症状が進行した患者さんに対する有効性と安全性が明らかになっていません。 |
導入遺伝子の残存 |
ゾルゲンスマ投与によって運動神経や筋細胞などに導入された遺伝子は染色体に組み込まれることなく細胞の核内に存在し、SMNタンパク質を長期間安定してつくります。 |
次世代への影響 |
ゾルゲンスマは生殖器官に長期間残存して生殖細胞に影響を及ぼす可能性は否定できません。 |
ゾルゲンスマの治療対象
治療対象となる患者さん
ゾルゲンスマの治療対象となるのは、脊髄性筋萎縮症(SMA)の患者さんです。
次の項目のすべてに該当する場合のみゾルゲンスマの投与が可能です。
過去にゾルゲンスマによる治療を受けたことがない
ゾルゲンスマの成分に対し過敏症の既往がない
父親および母親から受け継いだSMN1遺伝子の両方が欠失または変化していることが確認されている
2歳未満
体重2.6kg以上
抗AAV9抗体の検査の結果、陰性であることが確認されている
プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド剤に対するアレルギーまたは過敏症の既往がなく、プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド剤が投与できる
慎重な治療適用が必要と考えられる患者さん
以下の項目に1つでも該当する患者さんは、ゾルゲンスマの投与を慎重に判断する必要があります。
肝機能障害がある
早産児
プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド剤服用中に、やむを得ず予防接種をする必要がある
疾患が進行している(永続的な人工呼吸が導入されているなど)
作用機序動画
ゾルゲンスマの治療の流れ
ゾルゲンスマの治療を受ける前に必要な検査
ゾルゲンスマの治療を受けた後に必要な検査
プレドニゾロンなどの
副腎皮質ステロイド剤(経口薬)の服用について
ゾルゲンスマ投与により肝機能障害が発現することがあることから、治療開始24時間前から一定期間、プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド剤を服用する必要があります。
同薬の服用によって免疫力が低下するため、必ず感染症予防を実施してください。
早産児へのプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド剤の服用が神経系の発達に影響する可能性があるため、正産期(妊娠37週以降)に相当する期間までゾルゲンスマの投与が延期されることがあります。
プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド剤(経口薬)の服薬(服薬期間、服薬量)
は患者さんによって異なりますので、必ず医師の指示に従って服用してください。
特に注意すべき副作用
肝機能障害
肝機能の検査値異常をともなう肝機能障害があらわれることがあります。肝機能障害のリスクを軽減するため、ゾルゲンスマの投与前後にプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド剤(経口薬)を服用する必要があります。服用期間は患者さんによって異なりますので、必ず医師の指示に従ってください。
また、肝機能の状態を確認するため、ゾルゲンスマ投与前および投与後3ヵ月間(1ヵ月間は週に1回、その後は2週に1回)は定期的に肝機能検査を実施する必要があります。
血小板減少症
ゾルゲンスマ投与後初期に、血小板数が減少することがあるため、ゾルゲンスマの投与前および投与後3ヵ月間(1ヵ月間は週に1回、その後は2週に1回)は定期的に血小板数を測定する必要があります。
ゾルゲンスマ投与後に血小板数の異常が認められた場合には、正常範囲に回復するまで血小板数の測定を継続する必要があります。
血栓性微小血管症
ゾルゲンスマの投与から1週間前後に血栓性微小血管症があらわれたとの報告があります。血栓性微小血管症の特徴の1つに血小板減少があるため、ゾルゲンスマの投与前および投与後3ヵ月 間( 1ヵ月間は週に1回、その後は2週に1回)は定期的に血小板数を測定する必要があります。
ゾルゲンスマ投与後に内出血の増加、嘔吐、尿量減少、痙攣発作等の血栓性微小血管症を示唆する徴候・症状が認められた場合には、すぐに主治医に連絡してください。
その他の副作用
発熱・嘔吐
ゾルゲンスマ投与初期に、発熱や嘔吐があらわれることがあるため、お子さんの状態をよく見ていただく必要があります。
トロポニンⅠ増加
ゾルゲンスマ投与後に、心筋トロポニンⅠが増加することがあるため、定期的に心筋トロポニンⅠを測定する必要があります。
ゾルゲンスマ投与後に患者さんおよび
そのご家族が注意すべき症状
発熱や嘔吐があらわれた場合
嘔吐、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)または意識の低下等の症状が認められた場合 [肝機能障害を示唆する徴候]
ケガをした時の内出血が治りにくい、出血がいつもより止まりにくい等の症状が認められた場合 [血小板減少症を示唆する徴候]
内出血の増加、嘔吐、尿量減少、痙攣発作等の症状が認められた場合 [血栓性微小血管症を示唆する徴候]
皮膚が白~青紫色になる、呼吸が早くなる、息切れ、手足や腹部のむくみなどの症状が認められた場合 [心疾患を示唆する徴候]
上記の徴候・症状が認められた場合は、すぐに主治医に連絡をしてください。